これは神奈川県は湘南に住んでいた時の話です。
寝苦しい夏の夜に
どうにか不快な感覚から逃れて眠りについたのだが
安らぎの時間は長く続かなかった。
何か耳元で音がして、
その音によって
眠りに落ちていた意識が
現実の世界にうっすらと戻ってしまった。
ただ不思議なことにあるのは意識だけで、
体を動かすことはおろか
目も開けることさえ出来なかった。
最初は音でしかなかったものが
よく聞けば会話であることに気づいた。
とても嫌な感じがしたので
耳に意識を集中させてそれを聞いてみた。
「…てこ」
「も…こ」
「もって…こ」
「もっていこう」
歌うように
いくつもの声が空間に重なり続ける。
恐怖からなのか
体が固まってしまい震えることさえ許されなかった。
やがて体のあちらこちらが何かに包まれる感覚がして
このままではマズイという考えが脳裏をよぎり
絞り出すようにして
「やめてくれ」
と叫んだ。
…ドサッ
結構な高さから体全身が布団に落下し
そこでようやく目を開けることが出来た。
視界に広がるのは闇に包まれたいつもの寝室。
体中には先程の感覚が生々しく残っており、
熱帯夜の中
冷たい汗が絶えず流れ落ちた。
Iさんより