東京の某マンションに一人暮らししている友人K(男性)の話です。
その日は快晴、数日間雨も降っておらずうだるような暑さが続いていました。
いつもと変わらない普通の朝だったそうです。Kはいつものように、出勤する為家を出ました。すると、玄関ドアの外側に子供用の真っ赤な傘が掛かっています。
Kは少し不気味に思いながらも『近所の人が誰かに貸した傘を、部屋を間違えて返して行ったのかな?』と思い、目立って分かりやすいようにとエレベーターホールに傘を立て掛けて仕事に向かいました。
そのまま傘の事等忘れてしまい、Kは仕事に打ち込み、いつものように夜マンションに戻って来ました。
そう言えば、とエレベーターホールを見回すと傘は消えています。持ち主の元に返ったのだろうと一安心し、少し奥まった場所にある角部屋の自室に向かいました。
すると、ドアノブには真っ赤な傘が掛かっています。
Kは背筋に冷たい物を感じつつ、その傘を再びエレベーターホールへと運びます。
『きっと誰かが自室に傘が掛かっているのを目にしていたんだ。だから親切心から戻してくれたのだろう』、と自分に言い聞かせ布団に潜り込みました。
次の日もKは出勤する為家を出ました。
ドアノブには真っ赤な傘が掛かっています。
さすがに怖くなったKは傘を持ってエレベーターを降り、マンションのエントランスの傘立てに傘を投げ込み仕事に向かいました。
その日はどうしても帰る気になれず、終業後は同僚を誘って飲み歩き、深夜にマンションに戻りました。
エントランスの傘立てから傘は消えていました。Kはその時点で予想がついてしまいましたが、『今度こそ持ち主に返ったんだ』と言い聞かせ自室に向かいました。
真っ赤な傘は、やはり玄関ドアに掛かっています。
その晩、Kは傘に関する記憶が無いそうです。
Kはそれから少しずつ家から離れた場所まで傘を持って行っては放置をして来ました。が、帰宅すると必ず傘は先に戻って来ています。
よほど気にして見なければ目に付かない奥まった角部屋。近所に子供が住んでいる形跡が無い。深夜でも部屋に戻って来てしまう…謎は深まるばかりでした。
Kは諦めて傘を自宅に入れました。
今以上遠くにやっても帰って来たら自分の精神が保たないそうです。最近は、最初から自分の傘だったような気がすると言い出しました。
今でもその傘はKの部屋にあります。
帰るべき所に帰れたのでしょうか。