中学生くらいの頃、白い大きな犬を飼っていました。

犬は父が引っ越しの仕事で訪れた御宅に居て、引っ越し先に連れては行けず飼い主を探していたそうです。

父は夜、犬を連れて帰ってきました。

子犬にしては大きくて子熊の様にモフモフした犬でした、名前はムク。

ムクから見たパワーバランスは父→私→母→ムク→弟といった感じだったのでしょう。

弟は未だ小さかったのでムクが立ち上がれば弟より大きくて、よく遊ばれていました。

誰かが帰宅すれば走り回り、リードを見せれば自分の手綱をくわえて振り回したりと散歩が大好きな子でした。

ムクが家に来て暫く、或年の9月13日の事です。

いつもの様に夜に父と弟と私の三人でムクの散歩に出掛けた時の事です。

私は何と無く空を見上げ、同時に何故かムクとの散歩が最後かもしれないと思ったのです。

私の前には弟と父、走るムクが居て…何でそう思ったのか解りません。

気のせいだと思い、私はは誰にも言いませんでした。

翌日『ムクが急に吐いて倒れた。多分、死ぬかも知れない』と母から聞きました。

帰宅するとムクは枇杷の木の下に横になっていました。

一先ず屋内に毛布を敷いて寝かせましたが、間もなく死んでしまいました。

ムクは我が家の枇杷の木の下に埋めました。

倒れていたのも其の辺りでしたが、暑い日にはムクは其処によく居ましたから。

父に連絡を入れて帰宅を待ち、夜ムクを埋めました。

其から暫くが経って、父は庭の草刈りをしていて私は自室の勉強机の前に居ました。

部屋の扉は少し開けていて、ふと顔を上げた時…扉の隙間から白いものが私の前を通り窓から出ていきました。

一瞬の事で何かの見間違いかと思いましたが、其の白いものが通った場所にあった紐飾りが触れていないのに揺れていました。

怖くはありませんでした、其を母に話しました。

『ムクはきっと風になった、走るのが好きな犬だったからね』と。

ムクの命日は9月14日、ムクに一番からかわれていた弟の誕生日でした。

弟は小さかったのでムクがじゃれては逃げていました、故に一番ムクに接触が少なかったのも弟。

もしかすると、忘れてほしくなかったのかも知れません。